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* その9 *  寝不足


『エンドルフィン』

世の事情に精通した方なら、一度といわず、耳にしたことのある言葉ですよね。

ご存知の通り、人は夢中になりすぎて身体に感じる苦痛が限界に近づいたことに気がつけないでいると、やがて脳の視床下部から神経伝達物質の一種であるエンドルフィンという物質を大量に放出します。

これは興奮状態において、苦しい辛いという状況を恍惚に置き換えるという、動物の体内で生成される脳内麻薬物質です。

マラソン選手がよく感じるといわれる『ランナーズハイ』状態。

これも、同じくエンドルフィン放出が過剰になった場合の現象といわれています。
このほか、女性しか経験できないことですが、出産時の耐え難い痛みが起きたとき、同じようにエンドルフィンが分泌されます。
苦痛に顔をゆがめながら乗り越える、出産に漏れなく付いてくる陣痛。どんなに強く痛みを感じていたとしても、出産直後には痛みが消え、幸せな笑顔を見せることが出来るのは、この物質が放出されることが大きく関与しているのでしょうね。

共通しているのは、直前は相当苦しいはずなのに『また走りたい・また産みたい』と思う人が一般的に多いこと。
人間は限界を経験して始めて、その先にあるものを味わえるという良い例です。

とにかく人間というのは、生きるために命の危険を感じると、その苦しみから逃れ、幸福を味わえるように出来ているというわけ。

摩訶不思議なシステムですねー。

ということで、ここまでは前置き、です。(ヲイ


新人賞投稿作品二作目となった【MOSAIC】はSF設定で書きました。

前回新人賞に投稿した長編の評価のひとつ、社会背景を明確にしましょうという部分。この強化をするには得意分野で書くのがベストだと思ったわけです。

そうなると、やはり経験上、医学をバックボーンにした科学的な裏づけが書きやすいSF系、特にゲノム関連については興味もあり、予備知識も多く持っていたので、ネタ的にはこれしかないでしょ、と。
ただ、研究者が論文を書くわけではないので、そこのあたりはフィクション&ファンタジーを大いに交えなければ、いわゆるエンターテイメント的なお話にはならない。
結果的にはよくある設定だとは思いましたが、とにかく書けるものを書いてみなければということで、キャラを立て、設定を絞り込みました。

まずはキャラの個性と役割。

主人公のいいところとウイークポイント、なぜこの人物が主人公でなくてはいけないのかを明確にし、主人公が最終的に物語の中でどうなるのか。ここをぶらさないようにキッチリ決めます。
そして、主人公は一匹狼ではないので必ずそのサポートに立つ脇役がいます。脇役は主人公ほど目立つ事は出来ませんが、主人公の想いや生き方などに大きく影響を与えなくては話が進みません。

結構重要なポジション。

無論、影響しあうという点では、性格行動共にある程度間反対の部分を持っていないとダメだと思いました。更に、それ以上に何か通じる部分があることはもっと大切。
そして、物語が展開していくプロセスには、当然時間経過と共に明らかになるであろうエピソードへの、時空間リンクがあることも必要です。

早い話が伏線。
ただ、この伏線というのはちょっと厄介でした。
そういえば、こんな過去があったよな、アレはここに繋がるんだ!って思わせなきゃいけない。一種の推理ゲームでもあるわけです。

この時点では、お粗末なプロットのせいで、フィクションとリアルのバランスがまだつかめいてませんし、脳裏に浮かぶ漠然としたエピソードでは、あまり気の利いた伏線を貼れる自信はありませんでした。

これに関しては成り行きになってしまっても仕方がないかなーとか、すぐ思っちゃうし。(←ゆるすぎッ^^;)

そのほか、自然現象や電磁波の成り立ち、鉱物やプラズマなどなど、物語に関わる背景に関連する事柄は片っ端から調べます。
特に古くて手に入らない貴重な文献などは、国立図書館にも出向き、とにかく納得いくまで徹底的に調べ上げました。

このときまでは、国立図書館なんて一生行くところじゃないぐらいに思っていましたけどね。

もちろん時間をかけ調べたものの本文には不要になり、全くの無駄骨に終わる内容も多々ありましたが、意外なところで思わぬ収穫に繋がる内容にも出会いました。
分らない事や知らなかった事が次々と知識として自分の中に蓄積されていく。
これほど面白いことはありません。
前作でも同じような事がありましたが、自分の立てた展開のあるエピソードが偶然でも何かの事実と通じていると、これは運命かも!とそんなことも考えてしまいます。

で、当時の私。

外に行く様な仕事には着いていませんでしたので、基本、一日中自宅でデスクワーク。
絶対やらなきゃいけないことだけはこなしていたものの、それ以外はどうでも良くて、トイレも、三度の飯はおろか、水分さえ取るのを忘れそうになるほど、PCに向かい書くことに没頭していました。

調べたり、頭の中にある書きたい情報が次々言葉になっていき、あふれ出すように繋がって指先から出ていくその感覚が心地よくて、自分の意思ではなかなか止められない。

この頃の平均睡眠時間は、二十四時間中、たったの二時間。
それでも眠りたいとは思っていませんでした。

否。むしろ、人間はなぜご飯を食べ、なぜ眠らなければ生きていかれないのか?と思っていたくらい。睡眠も食事も半ば義務感です。(笑

一日中、ヘンテコなテンション。
そんな生活が二ヶ月ほどは続いたでしょうか……。

気が付けば一応の結末までを書き上げ、前作では書けなかった、夢にまで見た(笑)了の字を打ち終えていました。
この時感じた、あの充実感といったら。もう、これ以上の幸せってあるのかしらと思えるくらい。(笑)

そして、ふと思いつき体重を測ったら。

なんと、三キロ減。

椅子に座って書いてるだけで三キロ減ったんです。寝てない食べない運動してない、ナイナイ三拍子。
辛いどころか、楽しくてしょうがない。これこそ究極のダイエット法だ!と思いましたよ。(バカです、よい子はまねしちゃダメ。)

でも、本当に辛くなかったんですよ。嘘偽りなく。

ええ。ここで前置きの話が繋がるわけです。

後日、この一連のハイテンションを振り返ったときに気がつきました。

そうです。
これは例のエンドルフィンが、絶賛大放出されていたに違いないと。

つまり……命の危険と隣り合わせだった?

どうぞ笑ってやってください。

当時は本当に、心底楽しかったんです。(大爆笑)


そんなこんなで、大きな骨組みとしてのタイトルを基にして、プロットもどきにしたがって書き上げたのが、長編3作目となった、MOSAICでした。




時空を越えて(?)『夢』発……は、まだまだこれからも続くらしいよ。


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